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「……どうぞ」
ドアを開けたのは、パッとしない感じの少年だった。
「初めまして、戸部孝也と申します」
戸部はペコリとお辞儀をするとゴディバの黒い紙袋をファイルの近くに置いた。
乙木はもう一度戸部を見た。思い出せない。金髪の男に助けられた後気絶していたというのもあるのだが、彼を見た記憶が全くないのだ。こめかみに手を置いてそんな事を考えていた後、彼は顔を上げた。
戸部少年の黒い髪は金色になっていき、背も伸び体つきも華奢になってきた。
仏頂面のまま、乙木はこの変化を見つめていた。
「初めまして、ヴィンセント・ネッド・スターシブルと申します」
この時乙木は相槌を打った。
「ああ…あなたはあの時の」
「そうだ」
「…………あの時は、ありがとう」
「気にすることはない」
ヴィンセントが穏やかに笑ったその時だった。
「回診に来ました」
ノックと共に看護師の声がした。
乙木はベッドの側を見た。誰もいない。
看護師が怪訝な顔をすると彼は平穏を装った。
看護師が出ていった後、黒い蝙蝠がもぞもぞと掛け布団の下から出て来た。それからバサバサとドアの近くまで来ると、金髪の男―ヴィンセント・ネッド・スターシブル―へと変化した。
「お前―人間じゃないな」

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