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きのう話した小説。
そらのひつぎ、と無理やり解釈して(そういうのを曲解というんだ)、別の小説を書くのもいいかもしれません。
このお題で葬儀会場を舞台にした話を書こう、とは前から思っていました。当初はある会社の社員が、社長と自分を殺した犯人を参列者たちの前で見つけ出すという話にしようと思ったのですが、うまくいかず、結局こうなりました。
ゾンビネタなので、大丈夫な人のみどうぞ。(流血・内臓飛び出しなし)

 6月17日午後6時20分、1ヶ月前に中部のある川で釣り人を助けようとして流されたまま行方不明となった靖男の遺品である紺色の山高帽が遺族―といっても彼のいとこであるわしと、わしの息子である龍司、その姉である颯子とその夫、そして颯子夫婦の娘である愛子と綾子の双子たちだけだが―の元に届いた。
「父さん、まだ靖男さんは死んではいないかもしれないわ。」
「そうですよ、誰かに助けてもらってるかもしれませんよ」
 従兄弟の死に涙するわしは、娘夫婦に慰められた。
 しかし、そうしている間に、戸籍上は昨日死んだことになっているからと龍司が葬式関係の手配をさっさとしてしまった。
 
 お通夜が済み、ついに葬儀兼告別式が行われた。
 喪主であるわしは、自分のスピーチが棒読みになっていると感じていながら、頭の中では靖男と出会ってからのことが走馬灯のように思い出されていくのを感じた。
 思えば靖男が身寄りをなくしたが故に遠縁であるわしの家に引き取られたのは、わしと同い年である5歳のときだった。出身地は東京らしいが、わしより大柄なガキ大将という印象は、別々の大学に進学して離れ離れになったあとでも、まったく変わらなかった。
 内気ではないが、面倒くさがり屋のわしに対し、靖男は無鉄砲で、よく立ち入り禁止の山奥でさえ、わしを引っ張っていたものだった。そういったところに入って行って、あいつが何回怪我するのをわしは見て、あいつの体は何十針縫われたことか。服脱いだら、フランケンシュタインの作った怪物か、ゴシックパンク趣味の人形のように縫った後がたくさんあるのも覚えている。
 そんな経歴の上に、高校教師になっても高笑いを披露するほど豪快な靖男だったが、わしの初孫である愛子と綾子が生まれたときにわしらに見せたとき、柔らかな笑顔になったのを今でも覚えている。
 
 
 スピーチを終え、いよいよ弔電披露にはいろうとしたその時だった。
 
 
 会場の扉が勢いよく開かれた。
 参列者だけでなく、係の者や、その場にいた僧侶までが振り向いた。
 開けたのは、赤と白のチェックのシャツに、カーキ色のズボン、オリーヴ・グリーンの登山靴を身に着けた、はげ頭に白い口ひげの五十路がらみの男だった。ぼろぼろになっていたが、間違いなく和夫だった。
 しかし、抱きしめたいと思う気持ちもなく、それどころかわしはショックで声が出なかった。
 和夫の体はむくんだかのように、ぶくぶくにふくれあがっており、肌の色はヘドロのような色をしていて、死臭とでもいうべきだろうか、ある種の腐った匂いが皮膚から漂った。
 
 
 フランケンシュタインの怪物よりも、バタリアンよりも、恐ろしかった。
 自分の一番親しい人なのに、恐ろしかった。
 
 
 奴はわしの姿を見つけたかと思うと、わしめがけて走っていった。周りにいたものは恐怖のあまり席を立ち、四方に逃げていった。しかし当
ページの間から、干からびた靖男が顔をのぞかせ、力を振り絞りながらわしの名を呼んだ。
「……………ぉ……、俺を……、俺をぉ………俺を助けてくれ………」
のわしは恐怖のあまり、蛇に睨まれた蛙のように、逃げもせずに固まっていた。
 奴の手がわしの髪を引っつかんでわしはとうとう腰を抜かした。奴の口は大きく開いてわしの頭にかじりつこうとしていた。
 と、その時だった。わしの懐から、読経のときに使用したミニ経文が奴の頭の上にぽとりと落ちた。そこから煙がもうもうと出てきて、それに伴い奴は苦しみだした。
 奴が払いのけようとすると経文のページはばらけ、奴の全身を包み、煙の量は増えていった。
 「……………ぅ、ぅう……」
 張子のようにぴっしりと張り詰められた経文のページから靖男がわしに手を伸ばした。
「………ま、ま、さ………み…………ち………」
 
その時わしは彼の手をやさしく握り締めてこう答えた。
 
「今楽にしてやるから、おとなしく向こうで待っていろ。いつか必ず迎えに行く。」
 
それを聞いた靖男は全身の力が抜けたかのように、わしから手を離し、がくりとへたれこんだまま動かなかった。
 

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