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放課後心配になって、富雄のあとをつけてきた辰二郎は、トイレの鏡の前で点数自慢をしている富雄をみつけて、大慌てで止めに入った。
「富雄やめろおぉぉぉぉ!!!」
辰二郎を見つけた富雄は案の定彼の襟ぐりを引っつかんで殴った。
「俺様の最後の楽園にけちをつけるなんて、どういう神経してんだ!!」
「だからってここで自慢するのはよそうよ!!そんなことするぐらいだったら他でやったらどうよ!!」
「んだとう!!」
と辰二郎を追いかけようとしたその時、鏡の中から青白い手がニューっとでてきて富雄の背中を引っつかんだ。鏡の向こうには、誰だかわからないが青白い顔をした陰気そうな男のこの姿があった。
「へぇ~…いいなあ君100点取れて…」
そう言うと富雄を鏡の中に引きずり込もうとした。
「ぃやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
じたばたしても手遅れだった。もう彼は鏡の向こう側に引きずりこまれてしまった。
辰二郎が振り返った時、誰の姿も見えなかった。

それからして3年後の卒業式当日、あの男子トイレの鏡の前で水帆と辰二郎は手を洗っていた。
「なあ、あいつが行方不明になってからもう3年がたつな。」
「そうだね、あの伝説ほんとだったかもね。」
「そういえば、あの後すぐに転校生が来たね。」
「ああ、すっげえ不気味で暗い奴だったな。結局今日まで一人ぼっちだったし。」
と、その時鏡の中の辰二郎の後ろに、何者かの姿が映っていた。
「ねえ、今の…」
「俺っちには何も見えなかったけど?」
水帆は手を拭きながらのんきに答えた。ちょうどその時、水帆の前の鏡の中から化け物がニューッと身を乗り出して、シンクのふちに手をかけていた。
「か…帰り…ギギギ…帰りたい…い…シャアア…。」
肌が紫色になっている上、歯と爪も尖ってて目玉も黄色くなってはいるが、あの富雄であったと思われることは、2人にもわかっていた。
しかし、鏡の向こうから別の誰かが、富雄の背中を引っつかんでいた。しかし2人の後ろ、いや周辺には誰もいなかった。
ぐいぐいと彼を引っ張る手。抵抗する彼。
「ぐ…ぐげげ…貴様も……道連ぐげげ…道連れにぢでや゛るぅ…」
そう言うと富雄は、水帆の指に噛み付いた。
しかし、水帆が思いっきり引っ張った(実際は辰二郎も水帆を強く引っ張った)上に、手のほうも思いっきり富雄を引っ張ったため、水帆は指を噛み千切られるだけで済んだ。
鏡の中もまた、現実と全く同じものを映していた。

「帰りたい――か。まあそのうち向こうの世界も気に入るだろな。」
式に参加する直前、水帆は校庭の早咲き桜を保健室から見ながらのんびりと言った。

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