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「ああそうだよ、見ての通り俺は吸血鬼さ」
ヴィンセントはあっさりと自分の存在を話した。
「話してしまっていいのか、そんな事」
乙木はチョコレートを一つ取り出して、口にゆっくりと入れながら尋ねた。
「どうせばれるのなら早めに話した方がいいぜ」
「私は血を与えるべきだろうか」
「そんな事はしなくていい」
そう言いながら彼は病室を出た。

乙木は床にメモが落ちているのに気付いた。
メモには電話番号がしるしてあった。
乙木は早速携帯電話からかけた。(当然病院内の携帯電話は禁止である。乙木は周りに医療機器がないことを分かった上で使用したのだ。)
「はいもしもし。乙木と申しますが。」
「こんばんは、戸部です。うちの連れが勝手な真似をしたせいで…。」
ヴィンセントはしょんぼりした状態で孝也の肉体から抜け出していた。
「チョコ、ありがとう…」
「あ、いや、そんなあ」
「あと、さっき看護師さんから聞いたけど、退院明後日に決まった」
「よかったね」

乙木の顔から一瞬生気が消えた。
「明日、来れるか?」
「はい。」
孝也の明るい声が耳に入った。


消灯時間のあと、一本の電話が入った。
「はいもしもし。」
「あらあなたぁ、よかったわね、命に別条がなくて。」
優しそうな妻の声に、乙木の顔がほころんだ。
「今日は行けなくてごめんなさいね。」
「いや、いいよ、別に。退院明後日に決まったし。」
「じゃあ明日行くわね。」
「わかった。君の手料理が恋しいよ。」



電話のあと、乙木はしまったと思った。時間を聞くのを忘れていたのだ。
ヴィンセントは自分の身に手を出しはしないが、そうでない奴の場合は分からない。
しかも妻は大のお化け嫌い。
乙木は自らの行為に悔やみ、一晩中寝付けなかった。

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