丸山伸子は、お嬢様である阪本今子にいつもくっついていた。
彼女の言うことを聴いてさえいれば、カラオケだって、ゲーセンだって連れてってくれたし、ブランド物だって買えた。
言うことを聞かなくて、いじめられた奴はたくさん見てきた。彼女は今子についていくことを学び、ついていかない奴はクズで、生きる資格なんかないと思っていた。だから、浮元志穂を殺したって、どうってことなかった――
その日は、今子の矢垣中最後の日で、自宅でお別れパーティーを開いていた。
「おい死亡、何かあたしたちのために面白いことやってよ。」
志穂は今子や信子たちの間では、『死亡』と呼ばれていた。名前からとったというのもあるし、顔が青白くて、体中傷だらけだから、というのもある。もっとも、これは親からの虐待ではなく、自分で傷つけたものなのだが。
「お、おもしろいことって…?」
志穂は今子に髪を持ち上げられながら呟いた。
「こぉいつおもしろいこともしらないんだってぇ」
「あははは、流石死亡だけあるねえ」
その時、伸子は志穂のことを人間以下の存在だと思っていた。
「丸山センセー、この死亡ちゃんに、面白いことを教えてあげてください」
伸子たちのグループの一人、津田前乃が志穂を指差した。
「あっらー、死亡ちゃん、何と不気味なお顔なんでしょう」
伸子にそう言われた志穂は、顔を背けた。
「この丸山伸子先生が、お顔をきれいにしてあげましょう。さ、皆さんもどうぞどうぞ。」
そういうと、伸子は志穂の顔をあごから無理やり持ち上げ、今子たち5人は黒い油性マジックで顔全体を塗りたくった。その間志穂は、涙を流していた。
「ほーらブラック女王よお。」
ブラック女王―それはここにいる全員が、小学生のころ見てた魔女っ子アニメに出てくる悪役である。伸子たちは勿論、志穂もブラック女王は大っ嫌いだった。
「女王ヘーカー、ばんざーい!!!」
伸子たち6人は、志穂の手の甲にキスをすると見せかけ、つばを吐いた。耐えられなくなった志穂は、思わず「やめて!」と叫んだ。
とたんに、伸子たちの表情が険しく、且つ暗黒さを帯びた。
「何だよお前死亡のくせに」
「今まであんたはごみだと思ってたけど、それ以下だったね。あーあ、見損なったよ。」
「ごみはゴミ箱へ。死亡は墓場へ。」
がたがたと震える志穂の体躯に、12本の足がランダムに振り下ろされた。
「ねえ、何か様子おかしくない?」
そう言ったのは、山手二三子だった。
一瞬志穂が眠っているかのように見えた。しかし、確かにどこかおかしい。
「ねえ、ひょっとして…口動いてなくない?」
「…ってことはもしかして死んだ?」
「あたしたちが殺したってことがばれたら親に怒られるわ!!!」
「だったらいい方法があるわ。」そう言い出したのは伸子だった。
「えっ!?」
「埋めちゃえばいいのよ。あたしいい場所知ってるわ♪」
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