今日は学校懇談会。だからさっきお母さんに会ってきた。
「ももちゃん、鍵ちゃんと持ってるわね?」
「もちろん!だってあたしもう9歳だもん!」
「そう、じゃあお留守番よろしくね。」
こんな幸せな会話の後、私はいつものように大通りの裏を通っていった。
あそこは人通りは少ないけど、あそこで可愛らしい野良猫を見るのがあたしの楽しみ。
しかし今回はまだ日がくれかかかっている状態で来たのがまずかったのか、1匹も見かけることができなかった。
また今度来ればいいか、と思ったその時、一人の女が電柱の影から声をかけてきた。
女は全身黒尽くめで、目から下はマスクで隠れていた。
「あたし、綺麗…?」
私はちょっと彼女から目をそらしてぼそぼそと、まあ綺麗じゃない、と答えた。
そしたら女はこう言いながらマスクをはずしてきた。
「これでもおお~~~???」
マスクがとられた顔には、耳まで裂けた口ではなく、大小の吹き出物が沸騰したかのよう肌を乗っ取り、顔全体からはおしろいのにおいが強烈に漂っていた。
恐ろしさのあまり、私は猛ダッシュで家まで駆けていった。でも女はどこまでも追ってくる。しかも、女の吹き出物から出た分泌物(膿?)のせいでべとべとした手に触れた物は、たとえ電柱のコンクリートだろうと、自動車のバンパーだろうと、ボコボコに腫れ上がった。
これで私の中の恐怖心が増幅され、私はなるべく彼女と距離を置こうとした。
そうこうしているうちに私は交差点前についてしまった。距離は今2m強。横切っている最中に、私のからだに衝撃が走った。
気がついた時、私は病院の病室のベッドの中にいた。お母さんにすぐに涙ながらに抱かれてしまった。
私は目の前の鏡を見た。体のどこにもどこにも吹き出物は1つもない。
ほっとした私の元に、誰かがドアをノックしてきた。ノックしてきたのは、昔染めていたのだろうか、所々髪が赤い、ビジュアル系とも少し違った感じの若い男の人。
「…桃花ちゃん、君に怪我を負わせてしまって申し訳ない!」
彼はそういって頭を下げた。
あの人は、追われていた私を撥ねてしまったこと、お母さんとはもう和解したことを話してくれた。
時計は午後6時をさしていた。
何かニュースやってるかしら、とお母さんはテレビをつけた。
ローカルニュースがやっていて、あたしが撥ねられた…いや、対向車線が映っていた。黒い写真たてみたいな形をしたものが、薄いカスタード色した液体を取り囲んでいた。
液体の周りのアスファルトや、大破した車には、いぼがたくさん現れていた。あの女は死んだんだ、と私は確信した。彼女の身元は、退院したあとでもさっぱりわからなかった。
でも、あれから毎年、あの女の噂は聞くようになった。最初は幽霊か模造犯かと思ったけど、最近はあの女は人間じゃないと思うようになった。たとえば―醜さを恐れる女心とかね。
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